倉庫特有の、ほこり臭さが鼻に付く。大勢で騒いでいたからだろう、立てこもり始めた時よりも幾分温くなって、余計に不快指数を上げる部屋の温度。何本目かの煙草を靴底でにじりながら、ぢゃらりと音のした方を見やる。先ほどから、いつの間にかひとり、ふたりと部屋を後にして、気づけばここに残っているのは。
「おい芋侍、いい加減にこの錠を外せ」
「そう言われてほいほい応じる警察なんかいねーよ」
「状況を見ろ。争っている場合ではなかろう」
「あァ?お前、まともに票もとれねーような、うっすい連中に何びびって」
爆音に台詞はかき消される。随分近いその音は、上か?
続いて聞こえてきた覚えのある怒声に、少なくとも近藤さんはやられたな、心の中で合掌する。
背を伝い落ちる冷たい汗。ごまかすように刀の柄に手をかけ、もう一方の手で出入り口のノブを握った。
「オイ行くぞ。連中、攻めてきやがった」
「票もまともにとれねーようなうすい連中にはびびらんのではなかったか」
「びびってねーよ」
「フン…まぁいい」
桂は偉そうな態度とは裏腹に、愁傷に両手を差し出して、
「わかったのならさっさとこの錠をとくがいい」
「そのままで来い」
「これでどう戦えというのだ。馬鹿だろうお前」
心底馬鹿にした目で見られて、土方は一発二発、殴ってやりたい衝動をぐっとこらえる。
馬鹿の口車に乗ってはいけない。
変わらず上の方から聞こえてくる騒ぎが、土方を急き立てる。
「黙りやがれ。みすみすお前を逃がすわけにゃあいかねーんだよ、保険だ保険。
混乱に乗じてテメーが逃げ出さない保証がどこにある」
「保証も何も、もちろんトンズラさせてもらうが。
まぁ案ずるな、ここを切り抜けるまでは協力してやろう」
「トンズラ宣言されて外してやる馬鹿がどこにいるんだよ!!!!ったく…」
頭を抱える土方を尻目に、桂は一通り気が済んだのか、どっこいせと重い腰をようやく上げ、
「…ここで貴様と問答していても埒があかん。ここは俺が折れてやるとしよう。
なに、この桂小太郎、枷の一つや二つで戦えなくなるほど、やわな鍛え方はしておらんさ」
「そりゃ、心強いことだな。 …行くぞ」
重い鉄の扉を押し開く。
隣にいる男は誰よりもその位置にそぐわない筈なのに、大した違和感も感じないというのが、逆に俺を変に落ち着かない気分にさせた。
ひじづらおめでとううううううううう
そらち先生ありがとううううううううう
ウィルスミスアニメ撮り逃したああああああああ
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風邪をひくというのは、面倒というか不思議というか、けれど少し救いでもあって。
自分はまだしも人間なのだと、実感することができるから。
「・・・・・」
もぞりと、布団の奥から手をひっぱりだし、額にあててみる。いつだって冷たい指先は、熱をはらんだこの身にはちょうどいい氷嚢がわり。
どのくらい寝ていたんだろうか。
口の中が乾いて、舌が張り付いてしまっている。無理に動かそうとすると、咳が出た。奥の方で痰が凝っているようなのに、思うように吐き出せない。
喉の奥にいかんともしがたい不快感を感じながら、水を求めて枕もとをまさぐった。
ペットボトルを唇にあてて、一口。味なんて、感じない。生ぬるい感触が喉を滑り落ちて、それだけ。不快感はマシになったような、そうでもないような。
キャップを閉じて、横になったままでペットボトルをまた枕元へ放った。ごとり、と音がして、少し転がったような音が続いて、止まる。どうやらサイドテーブルからは落ちなかったようだと思って、目を閉じた。
静かだ。
静かすぎて、割れた窓から漏れ入る隙間風の音が耳に付く。
――アイツがいないから。
フ、と俺は笑う。自嘲。病気になると人間、心細くなるというが、まったく。
・・・・・・いや、これは心細いからなんかじゃない。
俺はこの通り何もできなくて、何もすることがなくて、本当に、暇で暇でしょうがないから。
アイツのことでも考えるしかない、ただそれだけなんだ。
突発で、ラビュのようなそうでないような。
「おはようございまぐぇっ」
目を開けたら目の前にアホ面、そりゃあ殴られたって文句は言えまい。
俺はラビの顔面に拳をめり込ませたまま、それを押し上げるような形で身を起こそうとした。だが、叶わない。
「・・・ひどいさー、ユウ」
「人の寝込み襲って何してやがる」
「襲ってないさ! やましい気持ちはこれっぽっちもないです!」
「じゃあこの手を離せ。 今すぐにだ」
根負けして一瞬力を緩めた隙に、両手とも寝台に縫い止められてしまった。俺の顔の両脇に手をついて俺の手を封じている張本人は、ユーちゃんはすぐ手が出るからダメー、とかふざけたことをほざいていて、それがまた寝起きの神経を逆なでする。第一この男、俺より弱いはずなのに、どうしてこういう時に限ってここまで力を発揮するのか。普段怠けてるんだったら承知しねェ、思ったらまた腹が立ってきた。
「おいラ」
「ユウ、誕生日おめでと!!」
至近距離で満面の笑顔とともに言われ、俺は頭がついていかずに間抜けな声をもらしてしまう。
「・・・・・・あ?」
「だから、誕生日!! 一番最初にお祝い言いたくて早起きしたんさー」
軽く頬にラビの唇が触れた。油断も隙もない。ただ、俺の頭はそんなことより、今日が自分の誕生日だという驚きというか発見というかでいっぱいだった。
「プレゼントは俺! 今日一日は好きに使ってくれていいさ!」
「その言葉忘れんなよ」
「男に二言はないさ! でさ、かわりに・・・なんだけど」
ラビの瞳がじっと俺を見つめる。綺麗な翡翠色。片方だけの碧玉。
「今日は、俺と二人きりで過ごそ?」
「・・・どーいう意味だ」
「この部屋で、俺と二人っきりの誕生日しようさ! ご飯とかは俺が運ぶし。座禅も一緒にやらせて頂きます」
「なんで俺が・・・・」
相変わらずよくわからない発想だ。誕生日に二人きりで、だからどうだというのだろう。
その時、コンコンと遠慮がちなノックの音が聞こえた。
「もしもし神田? 起きてる?」
「・・・リナリーだぞ。どうすんだ」
「う。 部屋まで来るのは予想外さ・・・」
「お前、なんとかしろよ」
「へ?」
「せいぜい頑張って二人きりとやらを死守するんだな」
「うおぁぁぁ!?」
布団ごと上に乗ったラビを蹴り飛ばすと、さっさと身なりを整えて俺は六幻を手に取った。
「おら馬鹿ウサギ。いいのか? 俺は朝の鍛錬に行くぜ」
「ちょ、待っ・・・」
布団に埋もれて情けない声を出すラビに、自然と口元が綻ぶのを感じた。
ユウちゃんおめでとォォォォ間にあった!! 本当は一日分まるまる書こうかと思ったんですがコネタで。 あれですから夜かけないですから私。んー・・・でももし中途半端だなってツッコミ入れて下さる方がいたら・・・善処します(だめそう)