※学生ラビュ!
図書館を出ると、外はさながら嵐の様相を呈していた。ラビは嘆息して、腕時計に目をやる。15時を少し回ったところ。あまりゆっくりもしていられない、さてどうしようかと思う。生憎傘は持ち合わせていない。
目まぐるしくて、季節の変化なんて楽しむ暇もない。気付いたら7月も半ば、先頃ようやく梅雨を脱したばかりと思っていたのに、そんな俺をあざ笑うかのようにこれでもかと太陽は存在を主張する。おかげで今日は真夏かと思うような暑さで、それでも俺は課題のレポートを片付けなきゃならなくて。最高気温は30度を超えますなんて、ありがたくない予報を背中に聞きながら家を出た。それが、昼。
冷房の効いた図書館の中で課題と睡魔を相手に戦って、夕方の約束のためにそろそろ帰らなくてはと席を立った。そして――これだ。これだから夏は嫌だ。
ものすごい雨の中を果敢に走り抜けていく人がいた。うへぇ。普段だったら俺もああするかもしれないけれど、今日は別だ。今日一日の労役の結晶がかばんの中に入っているし、この後約束もある。ずぶ濡れではなんとも格好がつかない。あのひとはそんなことを気にとめやしないだろうが、これは俺の意地の問題だ。好きな人の前では恰好いい自分でいたい。
しかし時間は迫ってくる。ずぶ濡れと、遅刻と。どちらをとるべきか。 遠くの空は明るいのに、目の前にはどんよりとした雲が垂れこめ、風が雨粒を吹き散らせている。 ああ、もどかしい。 早く、通り過ぎてしまえ。
ヴヴヴヴ・・・・・
ポケットから伝わってくる携帯の振動に、思わずラビは身をすくませた。長さから、メールではないことを察してポケットをまさぐる。ディスプレイを覗きこんで、浮かんだ名前に慌てて通話ボタンを押した。
「ユウ!?」
「お前今どこだ」
「え? ・・・・図書館」
「傘」
「ごめ・・・聞こえない。電波、悪いんかな? ユウ? もしもーし」
「聞こえてる」
「よかった」
「傘は」
「へ?」
「傘。 持ってんのかよ」
「持ってない・・・けど」
「チ」
頭の中を疑問符が埋める。ユウはなんでそんなことを聞くんだろう。そもそも、なんで電話なんか?急な用事でも入ったんじゃないかと身構えてしまう。でも、傘と繋がらないよ、な?
「あと2、3分で着く」
「は・・・・?」
「ついでだ。拾って行ってやる。待ってろ」
「え? ユウ、ちょ――」
プツッ
それきり切れてしまった電話を釈然としないながらもポケットにしまいなおした。
確かにユウと俺はこの後会う約束してて、待ち合わせ場所はここからそんなに遠くなかった。でも、ユウの家から来たら図書館を回ったら遠回りだ。それってつまり、俺を心配して、わざわざ?
雨で幾分涼しくなったはずなのに、むしろ体温は二度くらい上がった気がした。
あと数分。雨をが地を打つ激しい音。 遠雷。 雨に濡れた土のにおい。 ユウの電話のおかげで、世界がずっと違って見える。雨よやまないで。そうとすら考えている自分は、つくづく現金なやつだと思った。
夕立が凄かったんで。あまり学生である意味がない・・・
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